TL;DR
大容量のストレージ管理の際に検討すべき項目を挙げ、ストレージの種類間の比較・損益分岐点を検討した。
データ管理方法を真面目に考える
就職、結婚、出産などでライフステージが変わってくるとそれに伴ってスマホやPC上に保存されるデータ(主に写真)がどんどん増えていくことが想定される。これまでも漠然とバックアップは重要だと考えてはいて、iCloudの50GBプランに加入していたのだが、徐々に容量が足りなくなってきた。これを機にプランをアップグレードするかNASを導入するか検討したのだが、将来や日常のリスクを真面目に考えるとストレージの選択が簡単ではないことに気づいた。
例えば、iCloudはiPhoneユーザであればクラウドストレージの第一候補だと思うが、このサービスが本当に50年後も残っているのか。自分がもし死んだらデータはどのように引き継がれるのか。など、ライフスパンでデータを管理しようと考えると「考えすぎ」と思われるようなこともある程度考慮して検討する必要がありそうだ。
この記事では、ライフスパンで大容量のデータを管理していくことを念頭にどのようにストレージを選択するか、また、その損益分岐点の考え方について述べる。
大容量ストレージの候補
大容量ストレージの候補として以下を想定する。なお、USBメモリやSSDは原理上通電を長らくしていないと5年程度でデータが失われることがあるらしく、長期保存には向いていないと考えた。
- クラウド(iCloudを想定)
- (リモート接続可能な)NAS
- 外付けHDD
- 光ディスク(Blue-Rayなど)
考慮する項目
大容量ストレージを検討するにあたって考慮する項目を以下のように挙げた。
- 最低限考慮したい項目
- 長期保存性
- アクセス性
- 大容量
- その他に考慮したい項目
- 災害への耐性
- 死亡時の引継ぎ
- 値段
最低限考慮したい項目
長期保存性
長期に保存する目的は、若いころの思い出を振り返るためだけでなく、子供が結婚するときにプロフィールムービー用に写真を用意するなどもある。そのため、数十年のスパンで安定して管理できるストレージであることが好ましい。
クラウドサービスの場合、ユーザ側のミスでもない限りデータが失われることはほぼないという安心感がある。しかし、ライフスパンで使用し続けることを考えたとき、「数十年後にも今のままサービスが存在しているかどうかわからない」というのはリスクとなりうる。いきなりサービス終了になることはないだろうが、料金の値上げが起こったり、別サービスへの移行の判断を迫られる可能性は考えられないものではない。少なくとも自分が生きるであろう寿命の範囲内にそうしたことが起こる可能性は考慮に入れておくべきである。
NASや外付けHDD、光ディスクであれば、手元にデータ本体を置いておけるため、サービスの継続性のリスクを考える必要はなくなる。しかし、これらのストレージは、自身でメンテナンスする必要があるため、耐用年数を考える必要がある。一般にHDDは通電時間にもよるが、耐用年数が5年程度と言われている。つまり、NASや外付けHDDを使い続ける場合、5年程度のスパンで壊れてしまうリスクを考慮に入れる必要がある。
光ディスクは1枚当たりに書き込める量は100GB程度とHDDには及ばないが、長期保存用のもので耐用年数が100年とうたっているものもある。そのため、本当に長い期間残し続けたいものがあるのであれば光ディスクが選択肢となるだろう。
アクセス性
iCloud、Google Photosなどのクラウドサービスは非常に使いやすく設計されている。撮った写真は自動的にバックアップできる上、過去に撮った写真の検索機能も優れている。また、撮った写真をデバイス上から削除してデバイスのストレージを軽くすることもできる。
こうした機能は一部のNASでも実現できる。近年ではNASのソフトウェア開発が進んでおり、クラウドサービスと遜色ない機能が実現できているメーカ(Synology, QNAP, ASUSTORなど)もある。各社アプリのデモページを用意しているので検討時に有効に活用できる。
Synology:https://demo.synology.com/ja-jp
QNAP:https://www.qnap.com/ja-jp/live-demo
ASUSTOR:https://www.asustor.com/ja/live_demo
残念ながら日本メーカのIODATAやBaffaloのソフトウェアを見るとアイコン・UIが古臭い、頻繁に更新されていないことがうかがえるため、これらのメーカのNASを他のクラウドストレージサービスの代わりとして使うことはないと思う(ざっと調べた感じ使いやすそうな印象は無い)。
大容量
iCloudでは一つのアカウントで契約可能なプランの最大容量が2TBである(2022年現在)。しかし使用状況によってはこの容量で足りなくなってくることもあるかもしれない。今後より大容量のプランも出てくる可能性はあるだろうが、その場合は利用料金は上がってしまうだろう。
一方、NASや外付けHDD、光ディスクは容量が大きいものに変えることで簡単に上限なしに拡張することができる。
その他に考慮したい項目
災害への耐性
地震や火災、落雷、盗難などによって自宅においているストレージが失われる可能性はゼロではない。クラウドサービスであればこうしたリスクはほぼ無いだろう。もし自宅においているストレージでこのリスクに備えるのであれば、複数拠点にバックアップを分散できるようなシステムが必要になる。
運用の手間の無さ
データを自分で管理する場合には若干のITリテラシーが求められる。その点クラウドサービスはITリテラシーをほとんど必要としない。誰でも簡単に、楽に扱えることにクラウドサービスにはメリットがある。
NASの場合、ソフトウェアによって管理が簡単になっているとは言え、不調時や万が一の故障時の対応など、運用には手間がかかってしまう。
外付けHDDや光ディスクの場合パソコンを使ったことがあるレベルであれば容易に扱うことができるため、NASほどの運用のハードルは無いと考えられる。しかし、これらのストレージはバックアップ時にスマホやPCとつないで手動でバックアップを行う必要があるため、面倒という意味で運用の手間があるといえる。
死亡時の引継ぎ
特に若いうちはあまり考えることはないとは思うが、万が一のことは想定しておきたい。もし自分が死んでしまったらデータ管理に関して何を考えるべきか。以下の観点が重要だと考えた。
- 遺族がデータ管理方法を引継げるか
- そもそも遺族に自分のデータにアクセスされたいか
1点目は、今まで自分が管理していた管理方法を丸々引き継がせる場合である。クラウドサービスの場合、ログイン情報さえあればデータは引き出せるし、ファミリー共有しているアカウントは引き続き使用できる。外付けHDDや光ディスクの場合は、そのストレージを使い続ければ簡単に引継げる(パスワードロックがある場合はパスワードが必要)。
一方で、NASの場合は、遺族がNASを運用する知識を持っている必要がある。この点NASは生前に運用方法を教えておくなどの対策が必要になる。
2点目は、プライバシーに関する考慮である。遺族とは言え見られたくないデータもあるかもしれない。この場合、単に管理方法を引き継がせるのでは、見られたくないものにアクセスされる可能性がある。iCloudの場合、ファミリー共有をしていても通常の設定であれば他の共有者のデータは見ることはできない。そのため、ログイン情報を渡さなければアクセスされないと考えられる(もちろんスマホのロックをあけられてしまえばあまり意味はないが)。
NASや外付けHDD、光ディスクの場合、データは手元にあるので、完全にアクセスさせないことは難しいと考えられる。パスワードをかけて保護することもできるが、遺族にアクセスしてほしいものと分けておく必要がある。また、一定期間アクセスがないと自動的にファイルを削除してくれるソフトもあるらしいので、それを活用する手もある。
どのような形にせよ、死ぬ前に自分が望む引継ぎの形を事前に考えておいて、遺言状に記載したり、信頼できる人に管理方法を任せるということが必要になるだろう。
値段
クラウドサービスは基本的に月額・年額のサブスクリプション制で、iCloudであれば2TBのプランで年15600円となる。これを高いと考えるかどうかは、以上に挙げてきたクラウドサービスの利点に価値を感じるかどうか次第だろう。
そのほかのストレージは基本的に初期投資だけで、稼働時の電気代も高くても月数百円以内で済む。NASの場合、アクセスがスムーズかどうか(NASキットのCPU性能やメモリ性能)、ソフトウェアが充実しているか、RAIDの組み方などの性能面でピンからキリまであるので、安ければいいというものでもない。必要な機能ごとにどんなモデルを選ぶべきか検討しているサイトはたくさんあるので、買う際はそれを参考にするとよいと思う。
検討項目別の比較
以上の検討は以下の表のようにまとめられる。
クラウド | NAS | 外付けHDD | 光ディスク | |
長期保存性 | サービスが続く限り | 5年程度 | 5年程度 | 100年(長期保存に対応しているもの) |
アクセス性 | 〇 | 〇 | × | × |
大容量 | 2TB(2022年時点) | 上限なし | 上限なし | 上限なし(1枚あたり100GB程度) |
災害への耐性 | 〇 | × | × | × |
運用の手間の無さ | 〇 | ×(NAS運用に一定の知識が必要) | ×(バックアップの手間) | ×(バックアップの手間) |
死亡時の引継ぎ | アカウントのログイン情報を引き継ぐ | 自分以外の人がNASを扱える必要、アクセスされたくないデータは暗号化 | アクセスされたくないデータは暗号化 | アクセスされたくないデータは暗号化 |
値段 | 年15600円 | NASキット代 +3~5000円/TB | 3~5000円/TB | 1枚100GBあたり数百円 |
損益分岐点を考える
上記で挙げた項目で何に価値を感じるかは人それぞれだと思うので、単純に価格で比較するのではなく、重視する項目や許容できる手間を加味して総合的に損益分岐点を考えるべきである。
比較表を見ると、やはりクラウドサービスは様々な面で利便性が高いことがわかる。長期保存性と大容量に目をつぶってもいいのであれば、利便性をお金で買うのが一番良いし、リスクも最小化できる。
長期保存性と大容量のどちらかに不満がある場合は基本的にNASを運用するべきである。一方、大容量だけが問題なのであれば、最近の写真だけクラウドで管理し、古いものは外付けHDDや光ディスクに移行するという運用もありうる。また、クラウドにせよ、NASにせよ、自分が死亡することを考えて、遺族に残しておきたいデータだけを定期的に光ディスクにコピーするという運用も考えられる。
アクセス性さえ担保されていればよいのであればクラウドサービスかNASだが、同じ2TBのNASを構築する場合はRAID1で大体6万円程度(Synology DS220+と2TBのHDD2つ)なので、HDDの耐用年数で割ると1年あたり12000円程度になるので、NASの方がお得ということになる。
それぞれのデメリットを補う形での組み合わせもパターンに加えると、以下のようにメリット・デメリットをまとめられる。
ストレージの選択 | メリット | デメリット |
クラウド一本 | 利便性◎ | 長期保存性、大容量は目をつぶる |
クラウド+光ディスク | 利便性〇、死亡時には光ディスクだけを引継げば良い | データ移行の手間、光ディスクのデータにはアクセスしにくい |
NAS一本 | 利便性〇、2TB超えるデータに常時アクセス可能、長期保存可能 | 運用の手間、災害の可能性、死亡時の引継ぎには不安 |
NAS+光ディスク | 利便性〇、2TB超えるデータに常時アクセス可能、長期保存可能、死亡時には光ディスクだけを引継げば良い | データ移行の手間、運用の手間、災害の可能性 |
まとめ
ライフスパンでデータ管理を考えたときのストレージ選択について考えた。ライフスパンで考えると普段なら考えなくてもいいようなリスクを考慮に入れる必要が出てくる。クラウドサービスは現状便利だが、不安がないわけではない。自分は常時手元で過去のデータにアクセスできることを重視するタイプなので、「NAS+光ディスク」での運用が一番良いのではと考えている。
今後クラウドでも大容量化が来るかもしれないが、それこそその時に、値段が高すぎる場合は、利便性よりも値段で損益分岐点を考えるようになるのかもしれない。
参考
HDDが壊れる確率をもとにストレージ管理方針を考えているページがあったのでこちらも参考になると思う。NASと外付けHDDはどっちが安全?最強の写真バックアップ環境について考えてみた!
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